赤ちゃんが生まれて、そろそろお宮参りの予約を…と考えていたところに、親から「うちはお寺さんがあるんだから、初参式にしたら?」と言われた。
そんなきっかけで、この言葉を調べている方も多いと思います。
初参式(しょさんしき)は、字のとおり、赤ちゃんの「はじめてのお寺参り」です。
ただ、お宮参りと何が違うのか、何を準備すればいいのかは、意外と知られていません。
この記事では、浄土真宗の僧侶の立場から、初参式の意味とお宮参りとの違い、当日の流れや服装・お布施の目安、そして「なぜお寺で誕生を喜ぶのか」までをまとめました。
初参式とは?一言で言うと「家族そろって、はじめて仏さまの前に座る日」です
初参式って、具体的にどんな式なんでしょうか。
くわしく言うと、生まれた赤ちゃんと家族が、はじめてお寺の本堂で阿弥陀さま(浄土真宗のご本尊)の前に座り、いのちの誕生をよろこぶ式です。
正直に言うと、私自身も上の子が生まれるまで、初参式の中身をきちんと説明できる自信はありませんでした。
葬儀や法事のことはしょっちゅう話していても、「誕生」のお参りについて聞かれる機会は、案外少なかったんです。
読み方は「しょさんしき」。
ちなみに、「初産式」と書かれていることもありますが、正しくは「初参式」です。「産む」ではなく、お寺に「参る」の字を書きます。
呼び方は、お寺によってけっこう違います。
「初参り式」「初まいり」「誕生児初参式」などと案内しているお寺もあります。名前が違っても、大切にしていることは同じと考えて大丈夫です。
浄土真宗の門徒宅では、お宮参りのかわりに初参式をするところも少なくありません。
初参式では何をするの?
「式」と聞くと、なんだか堅苦しそうですよね。
安心してください。作法を覚えていく必要はありません。お寺の方が、その場で順番に案内してくれます。
内容はお寺ごとにアレンジが加わったりしますが、基本的な「初参式」の流れは以下のようなものです。
まず、みんなで「三帰依文(さんきえもん)」を読みます。
次に、赤ちゃんにはじめての念珠(数珠)が授与されます。
続いてお勤め(読経)があり、その間に家族が焼香をします。
最後に、お寺からの「お祝いのことば」と、両親からわが子へ贈る「よろこびのことば」があって、式は終わります。
この「よろこびのことば」、上の子の初参式で自分が読む番になったときは、正直ちょっと恥ずかしかったです。
でも、赤ちゃんが生まれてからの毎日は、育児でバタバタです。「生まれてきてくれてありがとう」なんて、あらためて言葉にする機会はなかなかありません。
ふだんは照れくさくて言えない気持ちを、仏さまの前でわが子に伝えられる。それは、なかなかいい時間だなと今は思います。
ほかにも、親から子への手紙を預かって、成長してから渡したりするお寺もあります。
形はお寺ごとに工夫されている、というのが実際のところです。
いつ、どこで受けるの?
「生後何日目に」といった決まりはありません。
目安としては、生後1か月から1歳ごろまでに受ける方が多い印象です。
僧侶として一つ付け加えるなら、日にちよりもお母さんの体調と季節を優先してほしいということ。
本堂は広くて天井が高いので、冷暖房が効きにくいことが多いんです。真夏や真冬は、赤ちゃんにもお母さんにも負担になりがちです。
場所は、ふだんお付き合いしているお寺、つまり「手次寺(てつぎでら)」が基本です。まずは住職に相談してみましょう。
また、別院(各地にある、本山に直属するお寺)で受け付けているところもあります。
手次寺(てつぎでら)とは
浄土真宗では、門徒が所属し、葬儀や法事をお願いしているお寺のことを「手次寺(お手次のお寺)」と呼ぶことが多いです。ほかの宗派でいう「菩提寺」にあたります。阿弥陀さまの教えと本山との間を「取り次いでくれるお寺」という意味合いがあります。
初参式とお宮参りの違いは?「お願いする場」と「聞かせてもらう場」です
お宮参りと初参式、何が違うの?
赤ちゃんを抱いて、家族そろって、手を合わせる。
外から見ると、正直かなり似ています。
違いのポイントは、「誰の前で、何をしているか」だと思います。
お宮参りは、土地の神さまにあいさつし、守りを願う行事
お宮参りは、神社で行う日本の伝統的な行事です。
赤ちゃんが生まれてはじめて、その土地の神さまである産土神(うぶすながみ)や氏神にお参りし、誕生への感謝と、健やかな成長を祈ります。
時期は昔から「生後30日を過ぎたころ」とされ、男の子は31日目、女の子は33日目など、男女で日にちを変える地域もあります。
ただ今は、生後1か月から100日ごろまでの都合のいい日にお参りする方が多いようです。
赤ちゃんが、その土地の神さまの「氏子」として迎えられる、という意味合いもあると言われています。
家族の節目を大事にしてきた、日本の大切な習俗ですね。
初参式は、仏さまの願いを聞かせてもらう日
一方、浄土真宗のお寺では、祈祷(きとう)をしません。
厄除けや家内安全などのお札やお守りも出していません。
「え、じゃあ初参式では何をお願いするの?」と思いますよね。
実は、初参式は何かをお願いする式ではありません。
この子のいのちは、生まれる前からもう阿弥陀さまに願われている。そのことを、家族そろって聞かせていただく式です。
たとえるなら、お宮参りが「こちらからお願いをしにいく」お参りだとすると、初参式は「仏さまからの手紙を受け取りに行く」お参り、という感じでしょうか。
同じように手を合わせていても、向きが逆なんです。
この「向き」の違いが、浄土真宗の考え方の芯にあるところでもあります。
なぜお寺で赤ちゃんの誕生を喜ぶの?初参式にこめられた浄土真宗の考え方
「お寺って、お葬式や法事で行くところでしょ?」
そう思っている方は多いと思います。
実際、お寺に足を運ぶきっかけのほとんどは、誰かが亡くなったときですよね。
ただ実は、お寺は亡くなった人のためだけの場所ではありません。生きている私たちが、仏さまの教えを聞くための場所です。
初参式の話をすると、「お寺って、おめでたいことで来てもいいんですか?」と聞かれることがときどきあります。
もちろん大丈夫です。むしろ、誕生という人生の大きな出来事こそ、仏さまの前で受け止めてほしいと思っています。
「人身受け難し」生まれてきたこと自体が、すでに尊い
初参式では、多くのお寺で「三帰依文」を読みます。
その冒頭は、こんな言葉です。
人身受け難し、いますでに受く。仏法聞き難し、いますでに聞く。
(『真宗聖典』第二版「三帰依文」)
人として生まれることは難しい。それなのに、いま人として生まれている。
仏さまの教えに出遇うことも難しい。それなのに、いま聞くことができている。
ざっくりですがそんな意味です。
ふだんこの言葉を読むときは、自分自身のこととして聞いています。
でも、下の子の初参式で、眠っているわが子を抱いて読んだときは、響き方がまったく違いました。「人身受け難し、いますでに受く」。ああ、この子のことだ、と。
元気に育つかどうか、どんな人になるか。そういうことより前に、生まれてきたこと自体がもう尊い。
そして三帰依文はこのあと、「このいのちのうちに仏さまの教えに出遇わなければ、いつ出遇うのか」という呼びかけへと続いていきます。
初参式は、いのちの尊さと、その呼びかけの両方を、家族みんなで受け止める時間なのだと私は思います。
子どもの誕生は、「親の誕生」でもある
初参式は「赤ちゃんの式」だと思われがちです。
でも実は、お母さん・お父さんにとっても「初参り」の日です。
「子どもの誕生は、親の誕生でもある」という言葉は、浄土真宗のお寺で、宗派の違いを越えてよく語られています。
子どもが生後3か月なら、親も親として生後3か月。
そう考えると、ちょっと気持ちが楽になりませんか。
上の子の初参式のとき、私は抱っこ係でした。
三帰依文を読みはじめた途端に大泣きされて、あやしながら、ほとんど読むことができませんでした。
「仏さまの前でくらい、ちゃんとしたいのに」と焦ったのを覚えています。
でも今思えば、あれがそのまま親1年生の姿だったんですよね。
思いどおりにならない子どもを前に、オロオロしている自分。
子育てをしていると、「自分が子どもを育てている」つもりで、実は子どもに親として育ててもらっている、と感じることがあります。
初参式は、その出発点に立つ日なのかもしれません。
「健やかに育ちますように」と願ってはいけないの?
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。
「祈らないってことは、子どもの健康を願っちゃいけないの?」
そんなことはありません。
わが子の健康や幸せを願うのは、親として自然な気持ちです。浄土真宗は、その気持ちまで否定しているわけではありません。
ただ、その願いを叶えてもらうために仏さまがいる、とは考えません。
ここで、名前のことを考えてみてください。
子どもの名前には、親の願いがこめられていますよね。「やさしい子に」「たくましく」「人に恵まれますように」。
でも親の願いは、気づくと「こうであってほしい」という条件つきになりがちです。
元気でいてほしい。勉強ができる子になってほしい。人に迷惑をかけないでほしい。
そう願うほど、思いどおりにいかないときに、親のほうが苦しくなったりもします。イヤイヤ期の子を持つ親としては、毎日のことです。
一方、阿弥陀さまの願いは、条件をつけません。
弥陀の本願には老少善悪のひとをえらばれず
(『歎異抄』第一条、『真宗聖典』第二版767頁)
阿弥陀さまの願いは、年を取っているか若いか、善い人か悪い人かで、人を選ばない。
これは浄土真宗の教えの根っこにある考え方です。
どんな人生を歩むことになっても、この子を見捨てることはない。
親が名前に願いをこめる、それよりもっと前から、この子にかけられている願いです。
初参式で聞くのは、この願いなんです。
親の願いを手放す必要はありません。
ただ、その外側を、もっと大きな願いが包んでいる。そう知っているだけで、子育ての肩の力が少し抜ける気がしています。
初参式の準備は?申し込み・服装・持ち物・お布施の目安
ここからは、実際に初参式を受けるときの準備をまとめます。
細かい作法を覚えるより、「当日あわてないこと」を優先してください。
申し込みはどうすればいい?
基本は、手次寺に電話で相談すれば大丈夫です。
「赤ちゃんが生まれたので、初参式をお願いしたいのですが」と伝えれば、お寺の方が流れを教えてくれます。
聞かれることが多いのは、赤ちゃんの名前と生年月日、参加する人数、希望の日にちあたりです。
土日は法事で予定が埋まっていることも多いので、早めに相談しておくと安心です。
手次寺が遠い、あるいはお付き合いのあるお寺がない、という場合もありますよね。
そのときは、近くの浄土真宗のお寺や別院に相談してみてください。京都が近いのであれば、東山にある大谷祖廟でも「初参り式」を受け付けています。
ひとつ気をつけたいのが、宗派の確認です。
同じ浄土真宗でも、真宗大谷派(東本願寺)と浄土真宗本願寺派(西本願寺)などで、作法や式の内容が少しずつ違います。どの宗派か、親や祖父母に確認しておくとスムーズです。
服装と持ち物は?
服装に厳しい決まりはありません。
派手すぎない、きちんとした服装であれば十分です。大人はセミフォーマルや、きれいめの普段着の方が多いですね。
赤ちゃんは、ベビードレスなどで大丈夫です。お宮参り用の祝着(産着)を持ってきてもかまいません。
持ち物は、次のものがあると安心です。
- 大人の念珠(数珠)
- 大谷派なら略肩衣、本願寺派なら門徒式章(持っていれば)
- おむつ、着替え、授乳の道具
- お布施(お礼)
赤ちゃん用の念珠は、式の中で授与されることが多いので、わざわざ買わなくても大丈夫です。気になる場合は、申し込みのときに聞いてみてください。
本堂は畳に正座のお寺もありますが、椅子席を用意しているところも増えています。お母さんの体調によっては、遠慮なく椅子をお願いしてくださいね。
宗派によって違うところ
真宗大谷派では、門徒は「略肩衣(りゃくかたぎぬ)」を肩にかけ、本願寺派では「門徒式章」をかけます。式の中で読むお経や、式の進め方もお寺によってさまざまで、浄土真宗でも宗派によって異なる場合がありますので、細かいことは手次寺に確認するのがいちばん確実です。
お布施(お礼)はいくら包めばいい?
いちばん聞きにくくて、いちばん気になるところですよね。
金額は、お寺によって違います。
参考までに、大谷祖廟の「初参り式」は、懇志金1万円となっています。念珠などの記念品の分も含めて考えるお寺もあります。
迷ったら、お寺に「皆さん、どのくらい包まれていますか?」と直接聞いて大丈夫です。
僧侶の立場から言うと、この質問をされて失礼だと思うことはありません。むしろ聞いてもらえたほうが、お互い安心です。
包み方は、白い封筒に「御布施」または「御礼」と書けば十分です。「懇志(こんし)」と書くこともあります。
お祝いごとなので、紅白・蝶結びの水引がついた祝儀袋を使う方もいます。
表書きの下には、赤ちゃんの名前か、家の名字を書きましょう。
初参式でよくある疑問
最後に、初参式について相談されることの多い疑問をまとめます。
お宮参りもしたい。両方やってもいいの?
これは本当によく聞かれます。
特に、両家のおじいちゃん・おばあちゃんの思いがからむと悩みますよね。
ここは、教えとして確かなことと、考え方が分かれることを分けてお話しします。
教えとして確かなのは、浄土真宗が「神さまや仏さまに祈って、願いを叶えてもらうこと」を人生のよりどころにしない教えだ、ということです。だからこそ、浄土真宗のお寺は祈祷をしません。
一方で、お宮参りに行くこと自体をどう受け止めるかは、お寺や僧侶によって考え方に幅があります。「門徒なら初参式を」とはっきり勧めるお寺もあれば、家族の事情に配慮して柔らかく考えるお寺もあります。
ここからは私個人の受け止めですが、家族の事情でお宮参りにも行く方を、責めようとは思いません。
ただ、両方するなら、それぞれが何を大切にする場なのかを知っておいてほしいなと思います。
「お願いしに行く場」と「願われていることを聞く場」。
その違いが分かっていれば、自分の家族が何を大事にしたいのかは、自然と見えてくるはずです。
1歳を過ぎてしまったけど、今からでも受けられる?
受けられます。
年齢の制限を設けていないお寺も多いです。
下の子の誕生をきっかけに、兄弟そろってお参りする、という形もいいですよね。七五三の時期にお参りを受け付けているお寺もあります。
赤ちゃんが泣いてしまったらどうしよう?
まったく問題ありません。
お寺は、法事や法要で小さな子が泣く場面に慣れています。式の途中でも、授乳やおむつ替えで席を外してかまいません。
我が家も、上の子のときは大泣き、下の子のときはほぼ寝ていました。
どちらも、今となってはいい思い出です。
泣き声も含めて、その子の「はじめてのお参り」だと思ってください。
初参式で法名がもらえるって本当?
初参式で法名がもらえるって本当?
答えから言うと、初参式そのものは、法名をいただく式ではありません。ただし、あわせて受けられる場合があります。
「法名って、亡くなったときにつけるものじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。
実は、法名は本来、仏さまの教えを聞いて生きる者としての名前です。生きているうちに「帰敬式(ききょうしき)」という式でいただくものなんです。
真宗大谷派では、帰敬式を受ける年齢に制限はありません。
そのため、誕生児の初参式にあわせて帰敬式を行い、赤ちゃん本人が法名をいただく、という取り組みをしているお寺もあります。
希望する場合は、手次寺に相談してみてください。
「帰敬式(ききょうしき)」とは
仏・法・僧の三つの宝(三宝)をよりどころとして生きることを表明し、仏弟子としての名前である「法名」をいただく式です。「おかみそり」とも呼ばれてきました。亡くなってからではなく、生きているうちに受けることが願われています。
法名と戒名の違いについては、別の記事で詳しく紹介しています。
門徒でなくても受けられる?
お寺によりますが、どなたでも受け付けているお寺も少なくありません。
「お付き合いのあるお寺はないけれど、子どもの誕生を仏さまの前でよろこびたい」という方も、近くの浄土真宗のお寺に問い合わせてみてください。
初参式をきっかけに、お寺とのご縁が始まったという方もいらっしゃいます。
まとめ
初参式は、生まれた赤ちゃんと家族が、はじめて仏さまの前に座り、いのちの誕生をよろこぶ式です。名前や式の形はお寺ごとに違いますが、大切にしていることは変わりません。
お宮参りとのいちばんの違いは、手を合わせる「向き」です。何かをお願いしに行くのではなく、この子がすでに阿弥陀さまに願われていることを、家族そろって聞かせていただく。それが初参式です。
そして初参式は、子どもだけでなく、親にとっても出発の日です。思いどおりにならない子育ての毎日の中で、ふと立ち返る場所があることは、きっと支えになります。
時期やお布施で迷ったら、まずは手次寺に電話を一本。お寺は、誕生のよろこびも一緒に受け止める場所です。

