法事の前の日、母から「お内仏に打敷を出しといてね」と頼まれた。
引き出しを開けると、金色や赤などのカラフルな三角の布が何枚か入っている。
……で、これはどの台に、どっち向きに掛けるの?
打敷(うちしき)は、法事やお盆が近づくと急に出番が来るのに、あらためて聞くと誰もはっきり答えられないものです。
この記事では、真宗大谷派の僧侶の立場から、打敷を掛ける時期と外す時期、掛け方、そしてなぜ浄土真宗では三角の布を使うのかを、「なぜそうするのか」とあわせて紹介します。
打敷はいつかける?一言で言うと「改まった仏事の日」
打敷って、結局いつ掛ければいいのでしょうか。
一言で言うと、打敷はふだんはしまっておき、法事やお盆など「改まった仏事の日」。つまり特別な日に掛けるものです。
実は、打敷は毎日使うものではありません。服でいえば、ふだん着ではなく、よそ行きの一着に近い存在です。
打敷を掛ける主なタイミングは?
真宗大谷派では、おおむね次のようなときに打敷を掛けます。
- 年忌法要(一周忌・三回忌などの法事)
- 祥月命日
- お盆
- 春と秋のお彼岸
- お正月(修正会)
- 報恩講(お取り越し)
ざっくり言えば、お寺さんにお参りに来てもらう日や、仏教の行事がある時期です。
祥月命日(しょうつきめいにち)は、亡くなった方の、亡くなった月と日が同じ日のこと。毎月めぐってくる「月命日」とは別に、年に一度の大切な日です。
報恩講を家で勤める「お取り越し」については、別の記事で詳しく紹介しています。
いつ掛けて、いつ外せばいい?
法事やお取り越しのように一日で終わる仏事なら、前日か当日の朝までに掛けて、終わったら外すのが一般的です。
お盆やお彼岸のように期間がある行事は、その期間中は掛けておき、期間が明けたら外します。お正月は、三が日だけの家もあれば、もう少し長く掛けておく家もあります。
このあたりは、地域やお寺によって幅があります。「うちはどうしていたっけ?」と迷ったら、お手次(おてつぎ)のお寺、つまりふだんお付き合いのあるお寺に聞いてみてください。
葬儀から四十九日までは「白い打敷」
ここは、いちばん間違えやすいところです。
亡くなってから四十九日(満中陰)までの「中陰」の間は、金色や赤などの色物ではなく、白い打敷を掛けます。
真宗大谷派では、枕勤めのあとにお内仏をきれいにして、上卓と前卓に白い打敷を掛けるのが一般的です。中陰の間は、ろうそくも白を使うことが多いです。
そして満中陰の法要が終わったら、白い打敷を外して、ふだんの形に戻します。
なお、中陰の間の打敷の扱いは、浄土真宗でも宗派によって異なる場合があります。ここで紹介しているのは、真宗大谷派でよく見られる形です。
白い打敷が手元にないときは?
急なことで、白い打敷が用意できない。そんなお宅も多いと思います。
その場合は、ふだんの打敷を裏返して、白い面を表にして使っても大丈夫です。多くの打敷は、裏地が白い布になっています。
枕勤めのときによく聞かれる質問ですが、わざわざ買いに走る必要はありませんよ。
そもそも打敷とは?上卓と前卓に掛ける三角の布
打敷という名前は知っていても、どの台のどこに掛けるのか、はっきりしない方も多いのではないでしょうか。
打敷は、お内仏(仏壇)を飾る「荘厳(しょうごん)」の一つです。仏さまの前に置かれた卓(しょく)、つまり台の上に、金襴(きんらん)などの華やかな布を敷いて、正面に垂らします。
上卓と前卓って、どこのこと?
浄土真宗のお内仏には、ご本尊の前に台が二段ほど置かれていることが多いです。
奥の、ご本尊のすぐ前にある台が上卓(うわじょく)。お仏飯などをお供えする台です。
その手前にある、少し大きな台が前卓(まえじょく)。お線香を入れる香炉・ろうそく立て・花瓶の「三具足(みつぐそく)」をのせる台です。
打敷は、この上卓と前卓の両方に掛けます。お内仏が小さく、前卓しかない場合は、前卓だけに掛ければ十分です。
三角の頂点が正面の真ん中に来るように掛ける
真宗大谷派での、一般的な掛け方を紹介します。
まず、卓の上の仏具をいったん下ろします。お内仏に入れたまま作業すると仏具を落としやすいので、卓ごと手前に出してからのほうが安心です。
次に、卓のいちばん上の板(天板)を外します。多くの卓は天板が固定されておらず、そのまま持ち上げられます。
打敷の上の部分(白い布の部分)を、卓の本体と天板の間に挟みます。三角の頂点が正面の真ん中に来るように位置を整え、左右にはみ出した部分は斜めに折って形を整えます。
最後に天板を戻し、仏具を元の位置に置けば完成です。
お内仏は、お寺の本堂を小さくしたもの。そう考えてもらって大丈夫です。本堂の飾りを思い出しながら整えてみましょう。
なぜ浄土真宗の打敷は三角なの?
仏具店で打敷を探すと、四角いものも並んでいます。
「うちのは三角なのに、なんで?」と思ったことはないでしょうか。
実は、打敷の形は宗派によって違います。浄土真宗では三角形(正面から見ると逆三角形)ですが、ほかの宗派では四角形の打敷を用いている場合もあります。
はっきりした理由は、実はよく分かっていない
ここは正直にお伝えしておきます。
浄土真宗の打敷が、なぜ三角なのか。はっきりした理由を示した資料は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。
「え、そうなの?」と思われたかもしれません。
ただ、一つ言えることがあります。正面に逆三角形が見える掛け方は、浄土真宗のお寺の荘厳として長く受け継がれてきた、ということです。
先ほども触れたように、浄土真宗では、お内仏はお寺の本堂と同じ考え方で飾るものとされています。門徒宅の打敷が三角なのも、お寺の内陣の形に倣っているから。そう考えると分かりやすいはずです。
浄土真宗では、お内仏はお寺の本堂と同じ考え方で飾るものとされています。だから打敷も、お寺の内陣にならった形になっているわけです。
打敷の柄には、どんなものがある?
打敷の柄はさまざまです。阿弥陀さまやお浄土を表す蓮の花や蓮の葉のほか、『仏説阿弥陀経』に出てくる孔雀などの六種類の鳥をあしらったものもあります。
宗派の紋が入った打敷もあります。真宗大谷派なら「抱き牡丹(だきぼたん)」「八藤紋(はっとうもん)」、浄土真宗本願寺派なら「下り藤(さがりふじ)」が代表的です。紋の入っていない打敷も多く、なくても問題はありません。
次の法事のとき、お内仏の打敷の柄をじっくり見てみると、ちょっとした発見があるかもしれません。
打敷はいつから使われてきたの?
打敷って、いつごろからあるものなのでしょう。
細かな起源ははっきりしませんが、手がかりになる話はいくつかあります。
500年前の本願寺でも、行事ごとに掛け替えていた
浄土真宗の荘厳の原型は、室町時代、蓮如上人が本願寺を再興した京都・山科の地で整えられたとされています。
その後、実如上人の時代にあたる永正17年(1520年)の年中行事の記録には、お正月、お彼岸、お盆といった行事ごとに、打敷の色や柄を替えていた様子が書き残されています。お正月には唐錦(からにしき)の打敷を掛けた、といった具合です。
さらに、親鸞聖人の三百回忌(1561年)には、前卓を大きなものに替え、それに合わせて打敷も新しく用意したという記録もあります。
今、私たちがお盆やお彼岸に打敷を出す習わしは、少なくとも500年ほど前の本願寺にまでさかのぼる、と言えそうです。
着物を打敷に仕立て直す習わし
打敷には、もう一つ興味深い歴史があります。
打敷になった着物
京都の高台寺には、豊臣秀吉の正室・高台院の寄進と伝わる打敷が残っています。小袖や打掛など、実際に着られていた着物をほどいて、打敷に仕立て直したものです。
当時は、着物を打敷などに仕立て替えてお寺に納めることが、着ていた人の追善供養や、この世と来世の安らかさを願って行われていたそうです。
なお、高台寺は臨済宗のお寺です。ここでの「追善供養」は、浄土真宗とは別の考え方を背景にした話として読んでください。
今は、故人の着物を打敷に仕立て直してお寺に納めたという話を私は聞いたことがありません。ただ住職の就任を記念して、門徒さんから打敷や仏具が寄付されたという話はよく耳にします。
浄土真宗のお寺でも、本堂の打敷の裏を見ると、寄進された方の名前や年号が書かれていることがよくあります。
報恩講の前に本堂の打敷を掛け替えていると、何十年も前のご門徒の名前を目にすることがあります。そのたびに、このお寺の仏事はたくさんの人の手で守られてきたんだな、と背筋が伸びます。
浄土真宗では、打敷は誰のために掛けるの?
お盆に打敷を出すのは、ご先祖さまをお迎えするため。
そう思っている方も多いのではないでしょうか。
ここは、浄土真宗と一般的な仏教のイメージが分かれるところです。
一般には「ご先祖へのおもてなし」と語られることも
お盆にはご先祖が帰ってくるから、仏壇をきれいに飾ってお迎えする。
多くの方がイメージするお盆は、こういう形だと思います。
実際、多くの宗派では、仏前の飾りやお供えを、仏さまやご先祖への供養として大切にしてきました。亡き人を思って仏壇を整える気持ちは、とても自然なものです。
浄土真宗では「お浄土のすがた」を表す荘厳
ただ、浄土真宗の受けとめ方は少し違います。これは他の宗派の考え方を否定しているわけではありません。
浄土真宗では、打敷を含むお内仏の飾りは、ご先祖のためではなく、お浄土のすがたを私たちに見える形で表したものです。これを「荘厳(しょうごん)」といいます。
『仏説阿弥陀経』には、お浄土が、宝でできた池や金の砂、青・黄・赤・白に光り輝く蓮の花などで美しく飾られている様子が説かれています。打敷の華やかな金襴や蓮の柄は、そうしたお浄土のすがたを思わせるものです。
子どもに絵本を読んでいると、文字だけのページより、絵があるページのほうが、ぐっと身を乗り出して聞いてくれます。
お浄土は、目に見えない世界です。言葉だけでは想像しにくい世界を、色と形で表しているのが荘厳。そう考えると、お内仏がもっと身近に感じられるはずです。
お盆に打敷を出すのも「お迎え」のためではない
浄土真宗では、亡くなった方は阿弥陀如来のはたらきによって、お浄土に生まれると受けとめます。そのため基本的に、お盆にご先祖が家に帰ってくる、とは考えません。迎え火や送り火もしないのが一般的です(地域の習わしとして続けているところもあります)。
では、なぜお盆に打敷を出すのか。
お盆は、亡き人をご縁に、仏さまの教えに出遇う大切な時期です。打敷は、その仏事を迎える場を整えるためのものです。
仏事が「誰のため」のものなのかは、こちらの記事でも触れています。
打敷を掛けると、こちらの気持ちも整っていく
ここからは、私個人の受けとめです。
上の子の入園式の前の晩、妻に頼まれて制服にアイロンをかけて、名札を付けました。アイロンをかけているうちに、「明日は特別な日なんだな」と、不思議とこちらの気持ちのほうが整っていった気がします。
打敷も、どこか似ています。
引き出しから出して、卓の天板を外して、三角を真ん中にそろえる。その手間のなかで、「明日は法事だ」「お盆が来たな」と、仏事を迎える心の準備ができていく。
飾りを整えているつもりで、実は整えられているのは自分のほう。打敷を掛けるたびに、私はそんなふうに感じています。
現代のお内仏では、打敷はどうしたらいい?
現代風の家具調のお仏壇で、卓がない。
引っ越しのときに、打敷がどこかへいってしまった。
法事のたびに出すのが面倒で、ずっと掛けたまま。
お参りの席で、こんな声を聞くこともよくあります。
忙しくて打敷を掛けっぱなし……それでも大丈夫?
掛けっぱなしにしていたからといって、何か悪いことが起きるわけではありません。
ただ、打敷は本来、改まった日に掛けるものです。金襴は日に当たると色があせやすく、ほこりも付きやすいので、ふだんは外しておくほうが長持ちします。
それに、ふだんは外しておくからこそ、掛けた日に「今日は特別な日だ」というメリハリも生まれます。
打敷がない・卓がないときは?
最近の家具調のお内仏には、上卓や前卓がないものも多くあります。その場合は、無理に買いそろえなくて大丈夫です。
打敷がないお宅も、今あるもので、できる範囲で整えれば十分です。大切なのは道具の数より、仏事を迎える場を整えようとする気持ちだと、私は考えています。
卓がないお内仏で打敷を使いたいとき
仏具店では、棚板に打敷を挟んで押さえる「打敷押さえ」という道具も売られています。小さめの打敷と組み合わせれば、卓がないお内仏でも、打敷を掛けた形に整えられます。
お内仏の大きさや形によって合うものが違うので、気になる方はお手次のお寺や仏具店に相談してみてください。
新しく打敷を用意するなら、宗派に合ったものを
新しく買う場合は、まず浄土真宗用の三角形のものを選びます。
次に、お内仏の卓の幅に合ったサイズかどうか。上卓用と前卓用では大きさが違うので、卓の横幅を測ることも必要です。
紋入りを選ぶなら、自分の家の宗派の紋になっているかも確認しておきましょう。
ほかにも、お盆の時期に使う透け感のある夏用の打敷や、中陰用の白い打敷もあります。最初から全部そろえる必要はありません。
ものによっては値が張るので、お手次のお寺さんが家に来られたときに、一度相談してみるのが一番です。
打敷について、ほかによくある疑問は?
最後に、法事の準備のときによく聞かれる質問をまとめておきます。
打敷の色に決まりはある?
中陰の間の白を除けば、細かな決まりはあまりありません。
赤、緑、紫、金など、金襴の色はさまざまです。お盆の時期には、涼しげな色や夏用の素材を選ぶ家もあります。
家にあるものを使えば十分です。
お寺さんが来ない日に掛けてもいい?
もちろん大丈夫です。
お盆やお彼岸に家族だけでお参りする日、祥月命日に手を合わせる日。お寺さんが来るかどうかに関係なく、改まった気持ちで迎えたい日に掛ければいいんです。
片付けるときに気をつけることは?
ほこりを軽く払ってから、三角の形に沿ってたたみ、湿気の少ない場所にしまいます。金襴は強く折ると折りじわが残りやすいので、ゆったりたたむのがおすすめです。
白い打敷と色の打敷を分けてしまっておくと、急なときにも慌てずにすみます。
まとめ
打敷は、法事や祥月命日、お盆、お彼岸、お正月、報恩講など、改まった仏事の日に掛ける布です。ふだんはしまっておき、亡くなってから四十九日までの中陰の間だけは、色物ではなく白い打敷を使います。
浄土真宗の打敷がなぜ三角なのか、はっきりした由来は分かっていません。ただ、お寺の本堂の荘厳に倣った形と考えると分かりやすいはずです。行事ごとに打敷を掛け替える習わしは、少なくとも500年ほど前の本願寺にもありました。
そして浄土真宗では、打敷はご先祖へのおもてなしのためではなく、お浄土のすがたを表す荘厳として掛けるものです。掛け方が分からないときは、お手次のお寺に気軽に聞いてみてください。

