「お坊さん、十時に来られるって。お茶っ葉は買ってあるけど……で、いつ出すの?」
自宅で法事を勤めることになると、お勤めの準備よりも、こういう細かいことのほうが気になったりしますよね。
子どものころは、母がお盆にお茶をのせて運んでいくのを、横で見ていただけ。いざ自分が施主になると、出すタイミングも、お菓子の選び方も、意外と分からないものです。
この記事では、浄土真宗の僧侶として門徒宅(お寺とご縁のあるお宅)にお参りしている立場から、お茶とお菓子を出すタイミング・選び方・出し方、そして浄土真宗ならではの考え方までをお話しします。
結論から言うと、お茶とお菓子に厳しい決まりはありません
法事で僧侶に出すお茶やお菓子に、宗教的な決まりはありません。
普通の来客のときと同じように、来てくれた人に「ひと息ついてください」とお出しするものです。
急須で淹れた緑茶でも、ペットボトルのお茶でも、なんでも良いです。
とはいえ目安だけお伝えすると、次の3つを押さえておけば間違いはないです。
- 出すのは「到着したとき」と「お勤めのあと」の2回か、お勤めのあとの1回
- お茶は飲みやすいものを。夏は冷たいお茶ではなく、常温がベターです
- お菓子は個包装で、持ち帰りやすいもの
ここから先は、それぞれ「なぜそうするのか」を、お茶を出していただく側、つまり僧侶から見えている景色も交えてお話しします。
僧侶にお茶はいつ出す?到着からお見送りまでの流れ
お坊さんが玄関に入ってきた。さて、すぐにお茶? それとも、お勤めが終わってから?
ここが一番迷うところだと思います。
答えは、「到着したとき」と「お勤めのあと」の2回出すか、お勤めのあとに1回出すのが一般的です。
自宅での法事では、おおよそ次のような流れで進みます。
僧侶が到着 → 準備→ お勤め → 法話 → (お斎)→ お見送り
この中で、お茶を出しやすい場面が2つあります。
到着してすぐ、お勤めの前に一杯
僧侶は車やバイクで移動してきます。夏なら汗をかいていますし、冬なら手がかじかんでいることもあります。
到着したら、そのまま仏間に案内して、まずお茶とお菓子を出すお宅が多いです。
ただ、時間がぎりぎりのときや、親族がそろって待っているときは、すぐにお勤めに入ることもよくあります。「先にお勤めをしましょうか」と言われたら、お茶は後回しで大丈夫です。
お勤めのあとは、いちばんゆっくり話せる時間
お勤めと法話が終わったら、お茶を出します。到着したときにも出していれば、ここで淹れ直してお出しします。
また、この時間は、ただの休憩ではありません。僧侶に、気になっていることを聞ける時間でもあります。
「次の法事はいつになりますか」「お仏壇の飾り方、これで合っていますか」。法事のあとによく聞かれる質問です。お茶を飲みながらなら、こういうことも聞きやすいですよね。
お斎(おとき:法事のあとの会食)がある場合は、僧侶が同席するかどうかで流れが変わります。同席しない場合は、お茶の時間でひと区切りにして、お見送りをします。
なお、お盆や報恩講の時期は、一日に何軒もお参りに回ることがあります。お茶を一杯飲んで、すぐに失礼することもあります。
お布施をいつ渡すかも、このあたりで迷いやすいところです。うっかり渡し忘れてしまったときの届け方は、別の記事で詳しく紹介しています。
法事のお茶とお菓子、何を用意すればいい?
「高いお茶を用意しないと失礼かな」「お坊さんだから、和菓子のほうがいい?」
ここも身構えなくて大丈夫です。基準は、相手が飲みやすく、食べやすく、持ち帰りやすいかです。
お茶は、ふだんおいしいと思っているもので十分
迷ったら、緑茶(煎茶)かほうじ茶が無難です。
とはいえ、コーヒーや紅茶を出しても失礼にはあたりません。私がお参りに伺うお宅でも、コーヒーを出してくださるところはけっこうあります。
温度は、熱すぎず、冷たすぎないものがベターです。夏でも、氷でキンキンに冷えたお茶より、常温のほうが僧侶には喜ばれることが多いです。
ペットボトルのお茶をそのまま出すのもありです。飲みきれなければ持ち帰れるので、次のお参り先に向かう僧侶にとっては、かえってありがたいこともあります。
お茶の温度と「声」の関係
お勤めでは、お経などを30分ほど声に出して読みます。私の実感ですが、熱すぎるお茶や冷たすぎるお茶をいただくと、のどがびっくりして、声が出しにくくなることがあります。
特にお勤めの前にいただくお茶は、そのあとの声の出しやすさに直結します。ぬるめのお茶や常温のお水を一杯いただけると、のども落ち着いて、正直ほっとします。
お菓子は個包装で、日持ちするものが安心
お菓子は、個包装になっていて、日持ちするものだとありがたいです。
その場で食べなくても、そのまま持ち帰ってもらえるからです。僧侶はこのあとも別のお宅に向かうことがあるので、かばんに入れやすいお菓子はとても助かります。
逆に、少し気を使うのはこんなお菓子です。
- 生クリームなど、持ち歩くと傷みやすいもの
- 夏場のチョコレートなど、溶けやすいもの
- 粉砂糖やきな粉がたっぷりかかったもの
最後のひとつは、意外に思われるかもしれません。僧侶は黒っぽい衣を着ていることが多く、白い粉がつくと目立ってしまいます。絶対にダメというわけではありませんが、知っておくと選びやすいと思います。
もうひとつ、よく聞かれるのが「お坊さんだから、肉や卵を使ったお菓子は避けたほうがいい?」という質問です。
浄土真宗の僧侶であれば、食べ物の制限はありません。洋菓子でも和菓子でも、気にせず選んでください。ただ、他の宗派のお寺にお願いする場合は考え方が異なることもあるので、心配なときはお寺に聞いてみると安心です。
いずれにしても、絶対にこうしなければならない、というものはありません。私からすると、どんなものでも「ありがとうございます」といただくだけです。
お茶とお菓子の出し方は?これだけ押さえれば大丈夫
「茶托の向きは?」「お菓子は右?左?」。マナーの記事を読むほど、細かい決まりが気になってきますよね。
ただ、私の感覚ですが、僧侶はそこまで気にしていない人のほうが多いです。基本の形だけ知っておけば十分です。
置く位置は「お菓子が左、お茶が右」
一般的な和のおもてなしでは、相手から見てお菓子が左、お茶が右になるように置きます。出す順番は、お菓子が先、お茶があとです。
運ぶときは、湯のみと茶托を別々にお盆にのせておき、出す直前に湯のみを茶托にのせます。こうすると、運ぶ途中でお茶がこぼれても、茶托がぬれずにすみます。
仏間でお出しする場合は、お内仏(お仏壇)の真正面は避けて、少し脇の机に置くのがおすすめです。
あとは「どうぞ」と一言添えれば、それでもう十分です。
子どもに運んでもらっても大丈夫?
もちろん大丈夫です。むしろ、僧侶としてはうれしい場面のひとつです。
小さな手でお盆を持って、緊張した顔で「どうぞ」と置いてくれる。お茶が少しこぼれていても、それも含めて、そのお宅の法事の景色だと思います。
小さな子どもと一緒に法事に参加するときの心配ごとは、別の記事で詳しく紹介しています。
お茶とお寺には、どんな縁があるの?
実は、お茶とお寺には、昔からちょっとした縁があります。
お茶は、お寺とともに広まった飲み物
日本に喫茶の習慣を広めたのは、鎌倉時代の僧・栄西(えいさい)だといわれています。
中国の宋に渡った栄西は、当時の中国のお寺で日常的に行われていた喫茶の習慣を日本に持ち帰りました。そして1211年に『喫茶養生記(きっさようじょうき)』を著し、お茶を、体をととのえる薬のようなものとして紹介しています。
室町時代になると、お寺や神社の門前に「一服一銭(いっぷくいっせん)」と呼ばれる茶店が現れ、お茶は庶民にも広がっていきました。
つまり、お茶とお寺は、日本にお茶が根づいたころからの付き合いです。
浄土真宗では、僧侶が門徒宅を訪ねる機会が多い
浄土真宗では、月命日のお参り(月参り)や、自宅で勤める報恩講(お取り越し)など、僧侶が門徒宅にうかがう機会がとても多くあります。
お勤めが終わったあと、お茶を囲んで少し話をする。この時間は、昔から教えについて語り合う場にもなってきました。
浄土真宗には、門徒が寄り合って、聞いた教えを語り合うことを大切にしてきた歴史があります。お勤めのあとのお茶の時間は、いわば小さな寄り合いのようなものです。
会社でも、会議が終わったあとの雑談のほうが、本音が出やすかったりしますよね。お茶の時間も、それに少し似ています。かしこまったお勤めのあとだからこそ、ふっと肩の力が抜けて、話せることがあります。
たとえば、お勤めのあいだは背すじを伸ばしていたご家族が、湯のみを手にしたとたん、「父はね……」と話し始める。その話から、亡くなった方がどんなふうにお念仏とともに生きてきたのかが見えてきます。聞いている私のほうが、あらためて教えに出遇い直させてもらうこともあります。
浄土真宗では、仏壇にお茶を供えないの?
ここで、お茶にまつわる小話を紹介します。
浄土真宗では一般的に、お内仏(お仏壇)にお茶やお水を供えません。
え、そうなの? と思った方も多いのではないでしょうか。
実際、お参りに伺うと、お仏壇にお茶やお水が供えてあるお宅もあります。亡くなった家族ののどが渇かないように、という優しい気持ちからだと思います。
では、なぜ浄土真宗では、お茶やお水を供えないのでしょうか。
お浄土には「八功徳水」が満ちているから
本来、お浄土は、すがたかたちもない世界です。お内仏は、その阿弥陀さまのお浄土を、お経にもとづいて私たちにもわかる形にあらわしたものです。
そのお浄土について、『仏説阿弥陀経』にはこう説かれています。
「極楽国土には、七宝の池有り。八功徳水、其の中に充満せり。」(『真宗聖典』第二版 136頁)
お浄土には、すばらしい水があふれている。だから、私たちが「のどが渇いていないかな」と心配する必要はない、ということです。
その代わり、というわけではありませんが、浄土真宗では華瓶(けびょう)という仏具に水を入れ、樒(しきみ)や青木を挿して供えます。これは仏さまの飲み水ではなく、お浄土の清らかな水をあらわすものです。
八功徳水(はっくどくすい)とは
お浄土の池に満ちているとされる、8つのすぐれたはたらきをもつ水のことです。清らかで、冷たく、甘く、やわらかく、のどやおなかを損なわない、といった性質があると経典には説かれています。
お仏壇に供える水を「仏さまの飲み物」と考えるのではなく、「お浄土は、すでに満たされた世界である」と受けとめる。これが浄土真宗の考え方です。
なお、他の宗派では、茶湯器(ちゃとうき)という仏具でお仏壇にお茶やお水を供えるのが一般的です。浄土真宗でも、宗派やお寺、地域によって考え方や習慣が異なる場合があります。
お茶を供えているお宅を責めるものではありません。気になる方は、お付き合いのあるお寺(手次寺)に聞いてみてください。
お茶やお菓子について、よくある疑問
最後に、法事のあとによく聞かれる質問をまとめてお答えします。
「お構いなく」と言われたら、出さないほうがいい?
僧侶の「お構いなく」には、遠慮の気持ちと、本当に時間がないという事情の両方があります。
時間がなさそうなときは、無理に勧めなくて大丈夫です。お菓子だけ「よろしければ、お持ち帰りください」と手渡せば、気持ちは十分に伝わります。
お茶に手をつけてもらえなかったら、失礼だった?
失礼だったわけではないので、安心してください。
実は私も、僧侶になりたてのころは迷いました。出されたお茶はすぐにいただくのが礼儀なのか、手をつけずにいるのが慎みなのか。先輩に聞いたら「ありがたくいただいたらいいよ」と笑われましたが。
手をつけない理由は、たいてい単純です。このあとも何軒か回るので、お手洗いのことを考えて水分を控えている。それだけのことも多いんです。
え、そんな理由? と思われるかもしれませんが、お参りが続く時期の僧侶にとっては、わりと切実な話です。
お菓子は包んで持ち帰ってもらうべき?
その場で召し上がらなかったら、「よろしければ」と持ち帰ってもらうのが自然です。個包装なら、そのまま渡せます。
ただし、無理に持たせる必要はありません。「お気持ちだけいただきます」と言われたら、それで大丈夫です。
仏前にお供えしたお菓子を出してもいい?
失礼にはあたりません。お仏壇にお供えしたお菓子は、下げたあとに家族やお参りに来た人でいただくものです。
施主も一緒に座って、お茶を飲んでいい?
一緒に座ってもらえると、僧侶としてはうれしいです。お茶だけ置いて、家族みんなが台所に下がってしまうと、少しさびしいものです。
話題に困ったら、亡くなった方の思い出や、今日のお勤めで気になったことを聞いてみてください。「さっきのお経は、どんな意味なんですか」という質問は、僧侶にとってうれしい質問のひとつです。
まとめ:お茶の時間は、ひと息つきながら話せる時間
法事で僧侶に出すお茶やお菓子に、宗教的な決まりはありません。到着したときやお勤めのあとに、飲みやすいお茶と、持ち帰りやすい個包装のお菓子を用意すれば十分です。
浄土真宗では、お浄土には八功徳水が満ちているとして、お内仏にお茶を供えないのが一般的です。僧侶に出すお茶は仏さまへのお供えではなく、来てくれた人への「お疲れさまです」というおもてなしです。
そして、お勤めのあとのお茶の時間は、ふだん聞けなかったことを僧侶に聞ける時間でもあります。湯のみを手に、気になっていることを気軽に話してみてください。

